これから観光産業の変革を促すSDGsの考え方とは?

2020-09-02

これから観光産業の変革を促すSDGsの考え方とは?
最近「SDGsへの取り組み」「SDGsへの貢献」など、SDGsという言葉を耳にすることが多くなりました。SDGsとは「Sustainable Development Goals(サステイナブル・デベロップメント・ゴールズ)」の略称で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されています。次世代にこの美しい地球を手渡していくために、地球全体で決めたSDGsという新しい考え方、ルールが今、必要とされています。観光、ツーリズムの世界もこれに基づき未来を描いていくことが重要です。本コラムではSDGsの考え方や背景、観光のSDGsへの貢献等を示しながら、なぜSDGsの考え方が観光にとって大切なのかを考えていきたいと思います。

目次
1.SDGsと国際連合
2.観光業界ではまだまだ浸透しないSDGs
3.観光産業が担うべきSDGsの取り組み分野と具体的な行動とは
4.世界各国の企業で既に始まっているSDGsの取り組み
5.地域の魅力を大切にする観光はSDGsに大いに貢献する
最近「SDGsへの取り組み」「SDGsへの貢献」などと、SDGsという言葉を耳にすることが多くなりました。SDGsとは「Sustainable Development Goals(サステイナブル・デベロップメント・ゴールズ)」の略称で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されています。今、次世代にこの美しい地球を手渡していくために、地球全体で決めたSDGsという新しい考え方、ルールが必要とされています。観光、ツーリズムの世界もこれに基づき未来を描いていくことが重要です。本コラムではSDGsの考え方や背景、観光のSDGsへの貢献等を示しながら、なぜSDGsの考え方が観光にとって大切なのかを考えていきたいと思います。

1.SDGsと国際連合

SDGsは、2015年9月、「誰一人取り残さない。(No one will be left behind)」を理念として、国連の「持続可能な開発サミット」で196の加盟国が全会一致で採択されました。その内容は17の開発目標と169のターゲット、232の指標からなり、地球全体に偏在する社会・経済・環境・文化・平和安全といった社会課題を解決するため設定された人類が取り組むべき開発目標であり、人間、地球及び繁栄のための行動計画です。これを受けて、ユネスコでは教育・文化を、ユニセフでは子供の育成や教育を、FAO(国際連合食糧農業機関)では食糧を、そしてUNWTO(国連世界観光機関)では観光と、各国連専門機関の専門分野においてSDGs達成に向けた新しい取り組みを推進しています。

私は2014年から2017年までスペイン・マドリッドにあるUNWTO(国連世界観光機関/以下:UNWTO)で勤務していました。2015年のSDGsの国連会議での採択から「2017年持続可能な観光国際年」までは、まさにSDGsと観光の関係が深まる胎動期でした。当時リファイ事務局長がリーダーシップを取り、SDGsに対し、観光がどのようにして貢献していくべきかという議論が活発に行われ、マドリッド本部の職場ではSDGsという言葉で溢れかえっていました。

あれから3年が経ち、現在ではUNWTO、WTTC(世界旅行ツーリズム協会)、PATA(太平洋アジア旅行業協会)といった観光関連の国際機関の熱心な取り組みが功を奏し、少しずつですがSDGsは国際観光の舞台でも共通言語となりつつあります。

持続可能な開発のための2030アジェンダ
(図1)SDGs「持続開発のためのアジェンダ2030」
出典:国連資料に基づいてJTB総合研究所作成

2.観光業界ではまだまだ浸透しないSDGs

では現在、観光業界や観光の現場で働く人々の意識はどうなっているのでしょうか?

UNWTO によると、観光産業は世界のGDPの10%を創出し、世界で働く10人に1人は観光業に携わる、大変裾野の広い産業といえます。世界全体の輸出額において、観光部門は1位の化学、2位の燃料部門に次ぐ世界3番目で、4位の自動車や5位の農業を上回ります。観光分野が経済においてこれだけの波及効果があることは意外にもあまり知られていません。

2018年5月のアジア太平洋地域の観光・旅行業界のビジネスリーダーや経営者達が一堂に会するPATA(太平洋アジア旅行業協会)の総会で、以下のようなことがありました。今年は平昌オリンピックで日本を沸かせたカーリング競技の開催地、韓国・江陵(カンヌン)で開催され、ゲストスピーカーとして前国連事務総長の潘基文氏(パン・ギムン氏)も参加しましたが、その旅行委員会で委員長が参加者に問いかけました。「『SDGs2030‐持続可能な開発目標2030』について知っている方は手を挙げて下さい。」これに対し、参加委員のメンバー達からあまり多く手は挙がりませんでした。委員長は、ご自身もその一人であることを認めた上で、言葉を続けます。「持続可能な開発目標は、地球上の美しい景色や先祖から引き継いできた文化・遺産を、次世代に引き継いでいくための人類共通の目標であり、アクションプランです。この目標に対して理解を深め、できることから貢献していくことが地球上でビジネスを行うすべての人々に求められる時代が到来しています。PATAでも今後、SDGsへの理解や認識を深めていきましょう。」

観光は、世界経済、社会そして自然環境に大きな影響をもたらしながら成長し続けています。だからこそ社会的責任も大きくなっていることを従事者である私たちが知り、行動を起こすことが大切だと考えます。

観光産業の重要性
(図2)なぜ観光産業は重要なのか(経済分野への貢献)、輸出産業における産業分野別ランキング(2015年)
出典:UNWTO

3.観光産業が担うべきSDGsの取り組み分野と具体的な行動とは

UNWTOは議論を重ねた結果、SDGsの17の開発目標のうち、観光分野が貢献する3つの目標、「ゴール8 働きがいも経済成長も」、「ゴール12 つくる責任つかう責任」、「ゴール14 海の豊かさを守ろう」を重点目標とし、その具体的指標として、ゴール8では「地域社会や経済を支える持続可能な観光を推進すること」、ゴール12では「持続可能な観光を計測する手法を開発すること」、ゴール14は「海面上昇の危機に瀕する島嶼国の海洋観光資源の活用のあり方を考えること」を掲げました。

しかしながら、リファイ事務局長の考えはそれだけに止まりませんでした。「地球を舞台とする観光業はSDGsの全ゴールの達成に貢献できる。貢献しなくてはならない。」私たちは経済的な側面のみならず社会や貧困、自然・環境、文化・遺産、相互理解や平和の創出といった分野においても観光は大きな貢献できるとし、2017年の「持続可能な観光国際年(International Year of Sustainable Tourism for Development 2017」」において、観光が貢献する下記5つ領域を提示しました。

 1) 包括的・持続的な経済発展
  2) 社会的な関わり、雇用拡大や貧困の撲滅
  3) 資源の有効活用、環境保護や気候変動
  4) 文化的価値、多様性、遺産、
  5) 相互理解、平和、安全

SDGsアクションプランの中の観光

「持続可能な観光」で取り組むべき5分野
(図3)国連が169の指標で示した3つのゴールとUNWTOが定義づけた5領域17ゴール*
出典:UNWTO資料に基づいてJTB総合研究所作成

4.世界各国の企業で既に始まっているSDGsの取り組み

現在世界の企業でSDGsの動きが進められています。「ロイヤル・カリビアンクルーズ社は持続可能な観光への取り組みを進めるべく、グローバル・サステイナブル・ツーリズム認証(GSTC認証)を取るように、JTBなど旅行会社を含む契約オペレーターへ通達を開始しています。取り組みはオペレーターだけでできるものではないため、観光地のホテルやレストラン、観光箇所等の事業者と歩みを一にして取り組みを進めていく必要があります。このような流れをうけて欧州のホテルではゼロエネギーの仕組みを導入したホテルも現れています。

台湾のホテルではプラスチック製品の利用削減の観点から毎日2本のペットホトル・ミネラル・ウォーターの提供サービスについて再考し始めています。食の分野においては、アジア太平洋旅行業協会は(PATA)でタイのホテルとブッフェサービスから生じる食廃棄検証を行っています。食と関わる事業者は自国内だけでなく海外で生産された食材も含めて利用された水や土地、関わった労働力、輸送にかかった石油燃料等に至るまでSDGsの考え方に準じてどう改善すべきなのかを調査しています。

世界観光ツーリズム協会(WTTC)は国連気候変動枠組条約(UNFCCC)や英国政府や世界自然保護基金(WWF)とそれぞれ覚書を締結し、観光産業が気候変動への取り組みや野生動物保護にどのように貢献できるのかを世界レベルのワーキンググループを設立しました。イルカに触れたり一緒に泳いだり、象に乗ったり、コアラを抱いたりするツアーのあり方についても検証していく時期に入ったとも言えます。宿・移動・食・雇用・地域といった観点で、どのような責任ある旅行サービスを推進していくべきかをバリューチェーン毎に考えていく時代に入ったと言えるでしょう。

5.地域の魅力を大切にする観光はSDGsに大いに貢献する

さて、私たちはSDGsへの準備ができているでしょうか?

誰しも記憶に残る美しい景色を心の中に持っています。大好物や誰かと一緒に食べたい美味しい食が必ずあります。誰もがその景色や食を分かち合い、そして次の世代に引き継ぎたいと感じています。その舞台となる町や景色、音響・照明効果となる流れるせせらぎの音、土地の音曲や鳥のさえずりや朝日に染まる稜線や星のきらめき。そして役者となる土地の文化や伝統を愛し、それを次世代に伝える住民たち。本来あるべき観光は自然、街並み、食、文化という地域の恵みを、そこに住む人々が美しいストーリーとして紡ぐまさに芸術と言えるのではないでしょうか 。

SDGsは土地(地球)の魅力を未来に引き継いでいくための大切な方位磁針です。観光がSDGsと足並みを合わせ、地域や国、そして地球全体の持続可能性に舵を合わせることで、大きな変革の歯車が回り始めます。今後、持続可能な観光を考える際、今各地で提供されている様々な観光プログラムを以下のようなツーリズムに大別して考えていくとSDGsにより貢献できるのではないかと考えます。

 1) 誰もが参加可能で地域全体への経済的裨益が持続するようなツーリズム
  2) 雇用創出や貧困削減に貢献するツーリズム
  3) 環境や気候変動に配慮した資源保全・保護を踏まえたツーリズム
  4) 伝統や固有性と多様性の両立を認め合う文化価値を描くツーリズム
  5) 平和や安全を支える相互理解に貢献するツーリズム

「これから2030年が終わるまであと12年。Travel Revolutionと言われる観光革命が起こり、各国がインバウンドビジネスに熱狂する時代。観光を通じてより良い社会を実現するために、今、私たちは何ができるのか。SDGsはあるべき方向へ導いてくれる良き伴走者であり方位磁針だ。」タレブ・リファイ事務局長が日本に戻る私に託した言葉です。私も今の自分に何ができるかを考えながら持続可能な社会に観光が如何に貢献するのか、SDGsに観光がどのように貢献していくのか、皆さんと一緒にこれからも考えていきたいと思います。

*<参考>
「持続可能な観光国際年」でUNWTOが定めた取り組むべき5分野
UNWTOが主導で推進した2017年持続可能な観光国際年にあたり観光がSDGsに貢献する5つの分野を定めた。「経済」「社会」「環境」のトリプル・ボトムラインにくわえて観光が価値を生みSDGsに貢献する分野として加えられているのは「文化」と「相互理解・平和構築」だ。観光とそれぞれの分野の関係は以下の通りに定義づけている。

1) 包括的・持続的な経済発展(Inclusive and sustainable economic growth)
 - 誰もが参加可能で地域全体への経済的裨益が持続するようなツーリズム
  ゴール1(貧困をなくそう)
  ゴール2(飢餓をゼロに)
  ゴール8(働きがいも経済成長も)
  ゴール9(産業と技術革新の基盤をつくろう)
  ゴール10(人や国の不平等をなくそう)
  ゴール17(パートナーシップで目標を達成しよう)

2) 社会的な関わり、雇用拡大や貧困の撲滅(Social inclusiveness, employment and poverty reduction)
 - 雇用創出や貧困削減に貢献するツーリズム
  ゴール1(貧困をなくそう)
  ゴール3(すべての人に健康と福祉を)
  ゴール4(質の高い教育をみんなに)
  ゴール5(ジェンダー平等を実現しよう)
  ゴール8(働きがいも経済成長も)

3) 資源の有効活用、環境保護や気候変動(Resource efficiency, environmental protection and climate change)
 - 環境や気候変動に配慮した資源保全・保護を踏まえたツーリズム
  ゴール6(安全な水とトイレを世界に)
  ゴール7(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)
  ゴール11(住み続けられるまちづくりを)
  ゴール12(つくる責任 つかう責任)
  ゴール13(気候変動の具体的な対策を)
  ゴール14(海の豊かさを守ろう)
  ゴール15(陸の豊かさも守ろう)

4) 文化的価値、多様性、遺産(Cultural values, diversity and heritage)
 - 伝統や固有性と多様性の両立を認め合う文化価値を描くツーリズム
  ゴール8(働きがいも経済成長も)
  ゴール11(住み続けられるまちづくりを)
  ゴール12(つくる責任 つかう責任)

5) 相互理解、平和、安全(Mutual understanding, peace and security)
 - 平和や安全を支える相互理解に貢献するツーリズム
  ゴール4(質の高い教育をみんなに)
  ゴール16(平和と公正をすべての人に)

著者プロフィール
熊田 順一

熊田 順一 (くまだ じゅんいち)
主席研究員
訪日インバウンド事業および国連世界観光機関(UNWTO)での業務経験を活かし、世界情勢やトレンドを踏まえたマーケティング、ビジネスソリューション、調査を得意とする。

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